問い合わせを減らすより、お客さまがつまずかない仕組みをつくる
専門サービスのAIチャットでは、気軽に相談できることが利用の継続を支えました。運営側の個別調査・回答コストも減った実例から、自動応答を設計する順番を考えます。
実践ノート|第5回/全7回
問い合わせが多いと、運営側は「対応を減らしたい」と考えます。ただ、お客さまが質問しなくなった理由が、解決したからなのか、相談しにくくて諦めたからなのかで、意味はまったく違います。私は、対応件数よりも、利用者が次へ進めているかを見たいと思っています。
専門性の高いサービスでは、説明書があっても、利用者は自分のケースに当てはめるところで迷います。そこに気軽な相談先があることは、サービスを使い続けるための一部です。販売した後の支援も、商品価値を届ける仕事として捉えています。
実例:個別の調査と回答にかかっていたコストを減らす
専門サービスの案件では、システムの使い方の相談や不備のチェックを、AIチャットで応答する仕組みを整えました。以前は運営側が個別ケースの調査も含めて回答していたため、多くの対応コストが発生していました。
導入後は利用者が気軽に相談できるようになり、運営側のそのコストは、ほぼなくなってきています。利用者がつまずきにくくなったことは、エンゲージメントを高め、新規獲得にもつながっています。利用者の増加と保守コストの低下という、二つの利点が生まれた実例です。
これは、人に質問させないようにした結果ではありません。知りたいときに答えへ近づけることと、運営側が同じ調査や説明を繰り返さなくてよいことが、同時に成り立った点に価値があります。
新しいAIを選ぶ前に、質問の中身を分ける
私たちは新しいモデルが出ると、何が得意か、どんな仕事に使えるかを試しています。ただ、モデルを選んで文章を答えさせるだけでは、サービスの支援は完成しません。必要なのは、何を確認すれば、その人が次に進めるかという設計です。
共通の説明で解決する質問:操作手順や利用条件など、確認済みの情報から案内できるもの。
個別の状態を確認する質問:入力内容や処理状況など、本人の情報と照らし合わせる必要があるもの。
人が判断する質問:例外対応、不具合、契約に関わる判断など、担当者へ引き継ぐもの。
この区別をせず、何でも答えるチャットにすると、間違いの確認が新しい仕事になりかねません。回答に使う資料を更新する人、個別情報を確認できる権限、人へ戻す条件までを、運用として決めます。
人へ引き継ぐとき、最初から聞き直させない
自動応答で解決しないときは、人が入ればよい。ただし、利用者に同じ説明を最初からさせると、相談した分だけ負担が増えてしまいます。設計時には、質問内容、確認した条件、案内したこと、未解決の点を担当者へどう渡すかを考えます。
問い合わせの入口がチャットでもLINEでも、この考え方は共通です。どこで受けるかより、解決まで情報が途切れないことが大切です。AIに任せる仕事を増やすほど、人の判断が必要な場面を見えるようにする必要があります。
今日のドリル:よくある質問を10件、分けてみる
最近の質問10件について、相談の理由と、回答のために調べたことを書き出す。
共通の説明、個別の確認、人の判断のどれが必要だったかを付ける。
まず一つの操作や利用場面に範囲を絞り、「利用者が次の行動まで進めたか」を確認する。
評価するのは自動回答の件数だけではありません。未解決のまま離れた人がいないか、同じ質問を繰り返していないか、人への引き継ぎが適切かも見ます。運営の都合と利用者の使いやすさを、同じ改善の中で考えたいのです。
良い自動化は、問い合わせ窓口を閉じることではなく、必要な支援に早く届く状態をつくることだと考えています。
